こんな能力(ちから)なんていらなかった
「ふー」
久し振りの術が成功した安堵から力が抜ける。
その後は氷をもらって店を出た。
……ここで思わぬ事態と遭遇する。
「……葵?」
二人同時に振り返る。
そこに、
いたのは————
「紫音?」
葵の言う通りその人だった。
ダラダラと冷や汗が垂れる。
葵と紫音——
今何故か一番見たくないセットだった。
そんな優羽がとった行動は突拍子もないことだった。
「少しだけ我慢して!」
優羽は葵の承諾を得る前に葵のことを横抱きにする。
そして紫音が驚いているうちに路地裏に消えた。
本気で走れば男にも追いつかれない優羽は、いつも以上に必死に走る。
そしていくつか門を曲がったところで壁ジャンプで屋上へと登った。
そして、身を潜めて下を見る。
そのうち紫音が自分のいるビルの下を走って行くのが見えた。
紫音に自分達のいるところを知っている気配はない。
そう悟ってようやくホッと息を吐いた。
「乱暴にしちゃってごめんね?」
「……平気」