こんな能力(ちから)なんていらなかった



 微笑み合うがその後、妙な沈黙に包まれる。


——どうしようこれ?


 と優羽が悩む中先に口火を切ったのは葵の方だった。


「……私のせいでごめん」

「なんで!?」


 謝られるなんて思いもしていなかったため優羽はかなり取り乱す。


「寧ろこっちが悪いでしょ!?」

「だって仁緒の言ってたこと本当だよ?」


 葵の言葉に目を見張る。


「私が優羽のことを華桜院から追い出したんだよ。庶民のくせにあそこにいるのが耐えられなかったから」


 葵は淡々と語る。


「本当の友達にもあんなこと言わせちゃったし、だからごめんね?」


 そう言って華やかに笑った葵。


 優羽はその時初めてちゃんと葵の顔を見た。


 だから、分かってしまった。


「葵、」

「罵倒でもする?それとも殴る?」


 ほら叩いていいよと近付いてくる葵に優羽は



「何で嘘つくの?」



と、一言だけ言った。

 途端に揺れる大きな瞳。
 真っ黒な瞳は優羽の顔を見た後違う方を向いた。


「葵、なんで?」


 優しく問いかけると葵は、やっと蚊の鳴くような声で言った。


優羽が私のことを嫌ってるから——


って。


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