こんな能力(ちから)なんていらなかった
優羽は慌ててハンドタオルを取り出すと、その目を軽く押さえた。
「……構わなければいいじゃん」
「そういうわけにもいかないでしょーが」
優羽は嗚咽で揺れる背中を撫でる。
「——だから構わなくていいってば!」
無言でその背中を撫で続ける。
そこには長い黒髪があった。
けれど、あの嫌な感覚はもうない。
——どういった変化だろう。
優羽は首を傾げながら葵の頭を撫でた。
「……黒髪の子は苦手だったんじゃないの?」
「あ、知ってたんだ」
あんな風に迫ってくるから知らないもんだと思っていた。
……というか、
「待って、何でそれ知ってんの?」
「なんでって……紫音に聞いたから……」
その答えに目を見開く。
その時ピースがはまったような気がした。
確か、あの時に紫音は言った。
『葵も唯斗も心配してた』と。
——ということは、
「葵があの葵!?」
「……今までなんだと思っていたの?」
葵はジトっと優羽のことを見る。
「いや……それは、」
しどろもどろな返答を返す優羽に葵は溜息をついた。