こんな能力(ちから)なんていらなかった
それは……と口篭る。
ほぼ初対面の人にこんなことを口走ってもよいものか?という羞恥心が優羽にセーブをかけていた。
「やっぱ、鋏返して」
「それは駄目!」
「じゃあ!」
葵の怒鳴り声に思わずビクッとする。
「どうすれば優羽のそばにいられるの!?」
「あ……葵?」
「ねぇ!私の髪が嫌いな優羽の近くにいられるためには!、っ……」
どうすればいいの——?
そう問いかけた葵の背中は小さくて、
弱々しくて、
「なんで抱きしめるのよ……」
「したかったから」
思わずギュッと抱きしめていた。
「そのままでいいから……」
「それだと優羽が辛いじゃん……」
「今まではね」
優羽の返答に困惑した顔をする葵。
「なんか、葵は大丈夫みたい」
今までは見ただけで倒れるほど、長い黒髪というものに拒絶反応を感じていた。
なのに、今は。
葵を抱きしめる自分の心臓は普段通りの動きをしていた。