こんな能力(ちから)なんていらなかった
何でお前なんかに指図されなければいけない。
何でお前なんかが優羽を抱き締めることができる。
それは、俺だけの権利だ——
しかし、主張することなど出来ない。
今は“昔の友人”にしか過ぎない紫音にそんなことを言えるはずがない。
何も言えないまま、無情にも家の扉は閉ざされた。
自分と優羽の間にある明らかな隔たり。
ぞれを痛感した時、初めて劣等感を覚えた。
「……それからはこんな様だよ」
ハハッと乾いた笑い声が喉にへばりつく。
「今あいつを見ても自制が効く気がしない」
だから、自分から優羽を拒絶した。
そのせいで優羽がどんどん離れていくのも分かってる。顔を見ただけで逃げられるような状態だ。
けれど、今の優羽には自由でいてほしい。誰にも指図されないで。
昔のことなど知らない今の優羽には。
自分の意思で、隣にいる人を選んで欲しかった。
「……いっそのこと」
ちらと唯斗は紫音の顔を見た。
「優羽を閉じ込めちゃえば?」
ガタッと机が動く。
「……お前どういう意味で言ってんだ」
「そのままの意味。あの人の“鳥籠”みたいに」
紫音はカッと怒りを露わに机を叩いた。