こんな能力(ちから)なんていらなかった
その間に目の前の青年は先程の携帯を取り出し会話を始めてしまった。
盗み聞きしてみても、小難しい話をしていてよく分からなかった。ただ会議の時間が、資料がっていうのは聞こえてきた。
そこから察するに目の前の青年は何処かに会社勤めするサラリーマンのようだ。少しだけ若いように感じるが、そこはあれだ。童顔とかきっとそんな感じだ。
『早くしてくださいっ!』
「無理。 じゃあ」
『お待ちくださ——』
向こうの声まで筒抜けの通話を、強制的に終わらせた青年にいいんですか?と尋ねようとするも、携帯を弄る彼に何か言うのは憚られて結局挙動不審な動きをして終わりだ。
しかし辛いのはここからだった。
青年は携帯をしまうと頬杖をついて、優羽の顔を一心に見てくる。
とても綺麗な顔に穴が空くほど見つめられて、優羽は段々と縮こまっていく。
見られるのは慣れているつもりだったが、こんな風に近距離でニコニコしてる相手に見つめられるなんてことは初めてのことだった。
心が羞恥に耐えられず悲鳴を上げ始めた頃に。
「お待たせしました——」
漸くウェイターが珈琲と紅茶、ケーキを運んできてくれた。
最後に伝票を机の上の筒に差し込むとそのまま立ち去るウェイター。