こんな能力(ちから)なんていらなかった
それを見ながら、紫音は弱々しい声を発した。
「俺はただ……」
「ただ何?」
——あいつに自由になって欲しかった。
あの人のようにはならないでほしかった。
チャラと胸元でチェーンが揺れて音が鳴る。
紫音はそのチェーンに繋がれた指輪を見つめる。
あの人に預けた筈だったのにいつの間にか戻ってきていたこの指輪。
項垂れる紫音の胸元に唯斗は手を伸ばしじゃあさと言葉を紡ぐ。
「お前にとっての自由って何?」
「……俺にとっての——?」
——自由?——
なぁ?と唯斗は指輪を紫音の目の前に掲げた。
「約束したんだろ?この指輪に」
唯斗がいつになく真剣な目で告げる。
その瞳が。
あの人とかわした約束を。
思い出せと。
強く訴える。
——ねぇ、
ずーっと見守っててよ?
楽園のような花畑で涙を流し佇んでいた一人の少女。
少女の目の前には二つの墓標。
墓標は有り合わせの板でできたハリボテも同然のものだった。
しかし墓標の前で、少女は髪をなびかせてそれを作った青年に微笑んで感謝の言葉を述べた。