こんな能力(ちから)なんていらなかった


 瞼を閉じればあの日の光景がいつでも蘇る。


 いつでも思い出せる。

 あの日に生まれた自分の存在意義を。



 自分の役目を————優羽を何からも守るということを。

 
 そして、それが自分の唯一の願い。


 自分の願いを果たすことが自由だというのなら。


 自分にとっての自由。

 それは、一つしかない。



「あの日の約束を果たすこと……」

「なら、行ってこいよ」


 唯斗がピンと人差し指を立てる。


「葵からのアドバイスだ。『今日は烏天狗がいないから夜這いのチャンス』だとよ」

「夜這いって……それ絶対葵が誤変換してるよな?」

「分からねぇぞ?天使様は案外変態らしいからな」


 唯斗が笑う。


「だから、あいつすげーの」

「……それ、どうなんだよ」


 紫音は呆れた溜息をつく。

 しかし、その表情はさっきまでと違う。迷いはもうなかった。


「……帰るのか?」

「ああ」


 広げていた資料やらなんやらを手早く片付けていく。

 珈琲で汚れた資料は唯斗に押し付ける。

 それを唯斗は苦笑しながらも受け取った。

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