こんな能力(ちから)なんていらなかった



「あ、あともう一つ」


 立ち去ろうとした背中を唯斗が呼び止める。


「なに?」

「葵から『早く優羽を安心させなさいよ!』だそうだ」

「……俺葵に好かれてるのか、嫌われてるのか分からない」


 紫音の疲れた表情に唯斗は笑って返す。


「あいつの中では優羽、そして俺、最後に優羽を幸せにしてくれる奴の順番で優先されてる」

「お前彼氏としてそれどうなの?」

「精進したく存じます……」


 紫音はだからか、とポツリと呟いた。


「お前に黙って転校したのは」

「それは言わないで……!」


 唯斗は机にガンと額をぶつける。
 その机は唯斗の涙で汚れていく。


「汚い」

「……お前って本当優羽以外には辛辣だよな」

「そう?」

「自覚なしかよ……」


 はーとわざとらしい溜息をついた唯斗に不本意ながらなんだよ?と聞く。


「お前らが早くくっつかねーと俺は一生あいつのonly1になれないんだよ……」


だから早くくっついてくんない?


 向けられた恨みがましい目はそう言っている。

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