こんな能力(ちから)なんていらなかった


 家の中に入ったらすぐに分かった。

 優羽がどこにいるか。


 何故って、優羽が自分を呼んでいる。

 自分を求めている。

 わけもなくそう思った。


 紫音は真っ直ぐに優羽の部屋へと向かった。


 突然現れた紫音に優羽を宥めていた赤毛の女の子が目を見開く。

 だが、その子を構ってる暇などない。


「……優羽?」


 あああああと悲鳴を上げ続ける優羽をギュッと抱き締めて紫音は耳元で囁いた。


「——どれくらいがいい?」


 ピタリと止まる悲鳴。


「優羽?」


もっと。


 口元に耳を寄せなければ分からないほどの音量。

 だが、確かに優羽はそう言った。


 紫音は無言で優羽を抱き締める腕に力を込める。


 優羽はそこで紫音の目を見た。

 紫音も優羽の瞳を見つめる。


 この瞳はいつもこうだ。

 意思が強いくせにすぐに揺らぐ。
 特に人の喪失に敏感な瞳。


「もっと強く……」


 要望通りに腕に力を籠める。

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