こんな能力(ちから)なんていらなかった


 二人きりになった部屋で紫音はポツリと呟いた。


「今日は完徹か……」


 許可が出ているのだから遠慮はいらない。
 そっと優羽の隣に潜り込む。と、優羽手がすかさず紫音の体を引き寄せた。


「起きてんの……?」


 優羽はそれに答えない。

 寝ているのだから当たり前なのだが。


 紫音は優羽の腕をそっと外すと、自分の腕の中に閉じ込める。


——いい香り。


 優羽からはフローラルな香りした。
 きっとシャンプーの香り。


 それとは別に甘い香りがする。
 妖好きする桃の香り。

 魔を祓う力もあるが、妖に力を与えることもできる仙桃。
 この甘い血肉のために千歳家の初代は祓屋になったと聞いた。
 自分達の血肉を狙う妖を祓うために。


——能力が無ければ喰われてしまう。


 しかし、踏み入れたら最後、光の世界に戻ることはできない。

 どれほど葛藤したのだろうか。

 闇の世界にある祓屋になるために。


 不意に優羽と中学の頃の会話を思い出す。



——やられる前にやってやれってことだよな、つまり。

——そうゆうことなんじゃない?

——お前のご先祖様は随分と殺伐としてんな。

——私も思ってた。



 そう言って笑った優羽は話した二週間後に姿を消した。


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