こんな能力(ちから)なんていらなかった



 その後ろ姿を助かったと言わんばかりに笑顔で見送る。紅茶でも口に入れてれば少しは間ももつだろう。


 ホッとしながら卓上の砂糖に手を伸ばそうとすると、スッとさりげなく砂糖の入った小瓶が差し出された。


「ん」

「ありがとー……ございます!」


 タメ口になりそうになったお礼を慌てて軌道修正する。


 駄目だ。
 この人といると調子が狂う。


 先程タメ口聞きかけたのは分かっているだろうに青年から優羽に向けられる顔は何故か変わりがない。
 向けられる優しい視線は容赦無く優羽のことを射抜く。
 それから逃れるように優羽はケーキへと目を向けた。そうして気が付く。


チーズケーキなんて久々に食べるかも……。


 チーズケーキは自分の大好物だったということを。
 そう考えれば早く食べたくて、ケーキにいそいそとフォークを差し込む。
 上のチーズクリームの部分はサクンと下のクッキー生地はザクンと。
 久々の感触に胸が高鳴る。

 そっとそれを口の中に運べばチーズ独特の香りが鼻腔をくすぐる。そして口の中は甘いクリームが溶けて隅々まで行きわたる。ザクザクのクッキーの食感もたまらない。
 一口二口と食べ進め、たまーに紅茶で口内を潤し香りを楽しむ。


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