こんな能力(ちから)なんていらなかった


 優羽から大まかな事情を聞いた後、紫音は三年前に起きた事故について、虱潰しに調べていた。
 優羽はそんな事故は見つからなかったと言った。

 しかし、自分なら。
 柊の名を持つ自分なら。

 例え国家ぐるみで隠していたとしても、柊家の権力の前ではそんな大した問題とならない。

 が、一件も該当する事故はなかった。


 その代わりに意外なものが出てきた。

 優羽の医療カルテだ。


 そこには骨折や擦り傷、そして、

——銃弾の摘出手術について書かれていたのだ。


 そこから分かるのが、優羽の身に起きたことは明らかに事故なんかではないということ。
 確実に作為的な何かが絡んでいる。

 しかし、その何かまで突き止めることは出来なかった。


「ん……」


 優羽が身じろぐ。

 苦しいのかと少し腕を緩める。

 と、優羽はすり寄ってきた。
 紫音の胸元に頭を寄せる優羽は昔のようだった。

 そして昔のように、涙を流していた。


「……ぃなくならないで」


 寝ていないと本音を言えないのところも変わらないのか——


 紫音はその涙を拭うと頬に優しいキスを落とす。

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