こんな能力(ちから)なんていらなかった
「何処にもいかねぇよ……」
「……おいてかないで」
「お前を置いていけるわけないだろ」
優羽を抱き締める腕に力が入る。
「……わたしから、はなれていかないで」
「離れられるわけが無いだろ?」
ここは鳥籠なんかじゃない。
優羽がやろうと思えば何でもできる世界。
手を伸ばせば届かない世界なんかじゃない。
だから、そんなに怯えなくていいんだ——
ギュッと抱きしめる腕に力を込めると、優羽はやっと満足したように体を紫音に預ける。
紫音はそんな優羽を愛しそうに頭を撫でた後、耳元で囁いた。
「……それに、前に約束したんだ」
昔、一人で泣いていた少女と交わした約束。
「『俺はお前のそばにいる』って」
あの人との約束に繋がる約束。
優羽は知らないであろう約束。
「だから、お前はもう心配する必要ないんだよ」
けれど、その約束だけが今の自分の存在意義。