こんな能力(ちから)なんていらなかった
半分程まで食べ進めたところでふと顔をあげると、いつも通り、青年と目が合う。
その青年の顔が愛しい人を見るような優しいものであることを受け入れそうになった自分に少し驚き、そんなわけないと言い聞かせながらケーキに意識を戻す。
そこではたと違和感を感じた気がしたが、何処に違和感を感じたのか分からず、途中で考えることをやめた。
「美味しいか?」
「美味しい、です」
「それはよかった」
青年は笑い声を漏らすと自分の前のコーヒーに口を付けた。
嗚呼、イケメンってずるい。
コーヒー飲むだけでここまで色気出せるなんて、人間業じゃない。
しばしぽけ〜と青年がコーヒー飲む姿を眺めていると、優羽のことを見た青年はフッと笑う。
「なぁ、優羽」
「……なんでひょうか」
話しかけられたので口の中に残っていたケーキを素早く咀嚼し喉の奥に押し込む。
顔を上げて窺うように一瞬だけ青年を見る。
一瞬のつもりだった。
一瞬見たら目をそらすつもりだった。
が、青年の目はそれを許さなかった。
今迄優しげに緩められていた双眸は切なげに歪められ、力のこもったその瞳は優羽のそれを捉えて離さない。