こんな能力(ちから)なんていらなかった




「何で、俺の名前呼んでくれないの?」

「…………」


 自分の目が見開いて行くのが分かる。


「……ぇ、と」


 何か言おうとして口を開く、でも口から出るのは掠れた呼吸音だけで——胸が苦しい。

 何故なんだろう。
 貴方の顔を見るのが辛いのは。


私は貴方のことを知らないのに——。


 分からなくなってしまったことは優羽のせいではないのに。
 だが、そのことが途轍もなく悪いことのように思えてくる。

 それだけ青年は切なげな顔をしていた。


 もしかしたらこの瞳に魔法をかけられてしまったのかもしれない。


 だからだろう。

 誰にも言ってはならないと言われていたことを、言わなくてはなんて思ったのは。

 例え貴方が苦しみを見せようと。
 その顔を歪めることとなったとしても。
 貴方に本当のことを言わなければなんて思ったのは。

 優羽は、一度口を引き結ぶと全身から力を抜いて口を開いた。


「——ごめんなさい」

「何で謝るの?」


 青年は微動だにしないで優羽のことを見つめる。


「……これから言うことは、嘘ではないということを念頭に置いた上で聞いてください」


 青年は黙ったまま続きを促す。


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