こんな能力(ちから)なんていらなかった
「お、美味いなこれ」
「でしょでしょ〜?」
「なんで優羽が誇らしげなんだ」
紫音は自分のパフェのアイス部分を掬うと優羽に差し出す。
その顔は楽しそうに口元が歪んでる。
これは、『あーん』しろってことなのだろうか?
バカップルの所業であることに間違いはないので(というかお前もさっきやってただろ)、一瞬口を開けるのに躊躇するが、すぐに抹茶アイスの誘惑に負けて口を開く。
「あっ、美味しい」
「だろ?」
「なんで誇らしげなの?」
「この流れさっきやっただろ」
紫音の呟きに優羽はクスリと笑う。
まるで夢のような時間だ。
ほんとに紫音と恋人同士になれたような気分に陥る。
こういうことがある度に紫音に聞きたくなる。
紫音は優羽をどう思っているのか。
だが、最後の一歩が踏み出せない。
心が決まってないこの状態で撃沈したならば、きっと自分の体は二度と海面に浮上してこれない。
そう思うとやっぱりその疑問を言葉には出来なかった。
だったら、夢のままでいい。
そんなことを考える臆病な自分に優羽はこっそり頭を抱えた。