こんな能力(ちから)なんていらなかった


 それから数日後、奈々と仕事に出かけた帰り道偶然紫音を見かけた優羽は駆け寄ろうとして隣にいた人物に目を見開く。



——え?



 紫音の隣には、忘れたくとも忘れられないあいつがいた。


「……御岳仁緒?」


 その人は金髪を風になびかせて優雅に歩く。
 何かを話し合うたびに仁緒は嬉しそうに笑う。

 美男美女でお似合いだと思った。

 だけど。



あれが、紫音の大事な人——?



 そうとは思えなかった。
 思いたくなかった。

 葵にあんなことした人を、紫音が選ぶとは思えなかった。

 確かにたまに意地悪で何を考えているか分からないけれど、紫音の行動全てに優しさがあることを知っている。

 そんな紫音が、あんなことを平気で出来る人を『大事な人』と優しい声音で言えるようには到底思えなかった。







 奈々は突然立ち止まった優羽の手を引っ張る。


明らかに今の優羽は変——


 奈々の目から見てもそれは明らかだった。
 繋いだ手から動揺が伝わってくる。


「優羽……?」


 ビクッと体を反応させた優羽はぎこちなく振り向いて、ぎこちなく笑った。


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