こんな能力(ちから)なんていらなかった
仁緒が自分より劣るとは思っていない。
けれど、葵に対してあることないこと喚き散らし、挙げ句の果てに怪我を負わせるような女の子を紫音が大事にしているとは思いたくなかった。
紫音とはほんのちょっとしか一緒にいない。
だけれども、そのほんのちょっとの間だけで何故か惹かれて、気が付けば好きになっていた。
紫音に好きな人がいると知っても、この気持ちを捨てられないほど好きになっていた。
そこまで好きになった相手だからこそ、心から応援できるそんな人を好きでいて欲しかった。
——なのに。
紫音は一番受け入れ難い人間を選んだ。
「…………なんっで、」
言葉を吐き捨てるように口にすると、堪えていた涙が一滴二滴と、目尻からこぼれ落ちていく。
「選りに選って、仁緒なのっ!」
感情のままに床を殴る。
「なんでっ!」
「なんでなの!!」
叫ぶたびに床が揺れる。
壁を力任せに殴った時、微妙なでっぱりに拳がぶつかる。
その痛みが今の優羽には耐えられなかった。
「うわああぁぁぁぁ……!」
まるで、赤子のような泣き声。
悲しみを全て吐き出すかのように優羽は咽び泣いた。