こんな能力(ちから)なんていらなかった
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優羽の泣き声を聞いた流は思わず立ち上がる。
が、その時丁度玄関の開く音が聞こえたため踏みとどまる。
数秒後思ったとおり流の部屋に奈々が顔を出した。
「……ただいま」
「おかえり」
奈々は困ったように眉を垂らしている。
基本的に能天気な奈々がそんな表情をすることなんて滅多にない。
「何があったんだ……?」
「ちょっと、ショックなことがあって……」
奈々はゴニョゴニョと口を濁す。
が、それだけで分かってしまう。
「……あの男か」
「いや……紫音くんが悪いわけじゃないんだけど……なんていうか、ね」
流は無言で立ち上がる。
それを見た奈々は慌てて流の体を押し留めた。
「なにをする……」
「今は放っといてあげて、きっとそっちの方が優羽にとって一番いいから……」
「だがっ……」
「いいから!」
流は奈々を睨みつける。
だが、一歩も引かない奈々に諦め、ドカッと腰を下ろした。
「前に言ったろ……」
「……」
「あいつは優羽を悲しませるって」