こんな能力(ちから)なんていらなかった
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窓を眺める優羽を葵は遠くからヤキモキしながら見ていた。
葵は優羽が前から夢を見ていることは知っている。
確かに、そのことは葵に口出し出来る領域ではない。
だが、それだけが優羽の隈の原因じゃない。
きっと紫音のことも負担になっている。
最近の優羽は無意識に紫音のことを避けていた。
毎日のように届くメール。
結構な頻度で届くものだから、机の上で携帯が震えているのをよく見る。
だが、それらの一つにも優羽は目を通そうとしなかった。
今迄そんなことはなかったからすぐ気が付いた。
紫音となにかあったのだと。
携帯を見ようともしないのは全て無意識下での行動のようで、そんな行動をとる優羽は紫音のことを忘れてしまおうとしているように思えた。
「……なんで言ってくれないのよ」
言ってくれれば、何かしら出来るかもしれないのに。
机に伏せた葵は突然ガバッと体を起こす。
その行動に周りの席の人達はビックリする。
周りから注目されていることに気が付かない葵はボソボソと何か呟き出す。
……それ、本当に?
最悪。
何でもっと早く言わなかったのよ。
傍から聞いていると誰かと会話しているように思える。
だが、葵が見る方には誰もいない。
それに気が付いたクラスメイトは背筋を凍らすのだった。