こんな能力(ちから)なんていらなかった


「気のせいよ。あの子が勝手に寄ってくるだけよ」

「!?」


 心を読まれたことに優羽は驚きの表情を見せた……わけでなく、仁緒に対してなんの関心もないような言動に驚いていた。


「……仁緒ってどんな人?」

「人の神経逆撫でするのが得意な奴よ」


 確かに。

 まだ二回しか会ったことはないが分かる気がする。


 特に二回目の時。

 仁緒は確かに優羽の顔を見てから紫音にキスをした。

 見せつけるかのように。

 優羽の気持ちを知っていてやっているとしか思えない行動だった。
 自分が自意識過剰なのかなだけ?


「仁緒ってさ……」

「なぁに?」


 思わず思ったままに疑問を口走りそうになった口を押さえる。


もし、それを訊いて立ち直れない答えが返ってきたら?——


 そうなってしまった時のことを考えると訊くに訊けなかった。


 葵は暫く優羽の目を見つめていたが、優羽が目を逸らしてからわざとらしく溜息をついた。

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