こんな能力(ちから)なんていらなかった


「紫音は柊財閥の御曹子よ」



 優羽は衝撃の事実にダラダラと冷や汗をかく。

 柊財閥——明治から続く最も古く、大きな財閥の一つだ。
 様々な業界を牛耳り日本国内だけでなく世界に名を馳せるその財閥を知らない者はいない。

 というか、名刺を貰った時に会社の名前と紫音の名字が同じことに何故疑問を持たなかったのか。


「こら、どこ行くのよ!」

「……わかんない」


 涙目でそう言った優羽に葵は取り敢えず座りなさいと命令する。

 その口調は有無を言わさない迫力があった。

 迫力にあっさりと負けた優羽はストンと腰を下ろした。


「なんでそんなこと気にするのよ?」


 葵は何でも無いように紅茶を啜っている。

 それを見ながら優羽は心の内を吐露した。


「……いられるわけないじゃん……私みたいな庶民がさ」


 葵はそう言った優羽の顔を見る。
 だが、俯いていた優羽はそのことに気が付かない。


「この私が、紫音の隣にいられるわけない」


 はっきりと言い切った優羽にそう、と言いながら葵は紅茶のカップを皿の上に置いた。

 かちゃん……という音に優羽は顔を上げて葵の顔を見る。

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