こんな能力(ちから)なんていらなかった
可愛い奈々が全身を使って、許してくださいアピールをしているが彼に通じたことはない。
流は作戦を変更し実力行使に出た奈々の頭を押さえつけながら、優羽に微笑んだ。
「お帰り、優羽」
「ただいま」
優羽も笑顔で返す。
この中で不満気なのは奈々だけだ。
流は頬をパンパンに膨らませた奈々に見えないようにこっそりため息を吐く。
どうするか悩んでいる顔だ。
お母さんは大変ですなー。
お母さんの気苦労をわかっているつもりの優羽は流にだけ見えるように後ろ手で皿洗いのジェスチャーを送る。
流は片眉をあげた後小さく頷いた。
「……飯食う代わりに皿洗いな?」
「するする、何でもするー!」
一瞬で輝きを取り戻す奈々に二人で苦笑いする。
何て単純なんだ。この馬鹿猫は。
お前水、大嫌いだろ……?
奈々は水系のものが大嫌いで手を洗うことすら嫌がる。風呂は以ての外だ。拘束するまで入ろうとしない。
まぁ、この子の場合風呂に入らなくとも暇さえあれば毛繕いしているから、汚くなることはないのだが。
そんな水嫌いの奈々がどのように皿洗いするのか……随分な見ものだ。
優羽達が呆れてるのも露知らず、奈々はえんじ色の髪を翻して、鼻歌交じりにリビングの方へと歩いて行った。