こんな能力(ちから)なんていらなかった


 少しは意識してしまうだろうが、本人がそれを望むのならば、そうした方がいいに決まっている。

 頷いた優羽に葵はふんわり笑った。
さっきまでの殺伐とした空気はもうそこにはない。


「素直な所が優羽のいいところ」

「それって……褒めてる?」


 問いに葵は微笑むだけ。
 優羽は拗ねて紅茶のカップを煽った。

 紅茶はとうの昔にぬるくなっていた。


 けれど、心臓は熱を持って疼く。


 仁緒は紫音の婚約者——


 だが、紫音は仁緒を嫌ってる。

 婚約を破棄しようとしている。


 ということは紫音の大事な人は仁緒ではない。


 そのことはいくらか優羽の心を楽にした。



 だが、それと共に浮上してきた疑問。




——紫音にとっての私って?




 記憶があった頃の優羽は紫音の友人だったかもしれない。



だが今の。

今の私は。


紫音にとって一体何?





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