こんな能力(ちから)なんていらなかった
優羽は少し肩を竦めた。
「ちょっと怪我しただけだよ」
「ちょっとどころじゃない……!」
皮膚の下のもの見えるほど深く肉が抉られていた。
もう痛々しいなんてもんじゃない。
チラリと見えてしまった白いものが何であるのかなんて考えたくもない。
奈々は手当ての為に優羽をリビングへと強引に連れていく。
優羽は治癒術が得意だった。
だが、何故かその術をなかなか自分に使おうとしない。
疲れるから、と優羽は言う。
確かに治癒術は、自分の生気を使って行うため行った後は疲労感と脱力感が体を襲うのだと言う。
しかし、その疲れは休めば取り戻せるのだ。痛みより優先する必要は無いように思える。
だが、優羽はいつも痛みをとるのだ。
保護者代りのような奈々と流からすれば、優羽が怪我をする度に神経を擦り減らすので、かねがね使えと口煩く言っている。
しかし、優羽がそれを聞くことはなかった。
「もうっ!この子ったら!」
リビングのソファに優羽を置くと救急箱を取りに行く。
優羽は面目ないというように頭を下げた。
「……止血はしてたよね」
血に濡れて、既にもう元の色が分からなくなってしまった薄い布を外すと、代わりに真っ白のタオルをそこに押し付ける。