こんな能力(ちから)なんていらなかった
あっという間にタオルの白が赤に染まっていく。
「流呼ばなきゃ……」
器用な流は包帯を巻くのがうまい。
奈々は立ち上がって流の部屋へ向かう。
だが、それを優羽は留めた。
「自分で手当できるから気にしないで」
「でもっ!」
「いいから」
言い募る奈々を押さえて優羽は立ち上がる。
「やっぱ、ダメだよ!」
呼びに行こうとした奈々の腕を優羽が掴む。
その目にははっきりとした拒絶の色が浮かんでいた。
「……いいから」
無言になった奈々から優羽はゆっくりと手を抜き取る。
「じゃあ、部屋に戻るね」
尚も無言を貫く奈々に優羽は寂しそうな顔を向けた。
が、そのまま出て行った。
奈々はその場に立ち尽くしているとガラと襖の開く音が聞こえてきた。
「……何で出てこなかったのよ?」
後ろにいるであろう流に怒りを押し殺した声で訊く。
「あいつは俺に会いたくないみたいだから」
「あんたが、いつまでも拗ねてるからでしょ!?」
奈々が怒鳴りつける。
それを流は無表情で見ていた。