こんな能力(ちから)なんていらなかった
日頃の寝不足も祟ったのだろう。
注意力が散漫としていたのは分かっていた。
気が付いたら腕から血が流れていた。
利き手の負傷だったため、優羽はその場から急いで離脱した。
例えそこに集まる妖が雑魚だけだとしても満足に腕を奮えない状態で生き残れるほど、この世界は甘くない。
そうして、帰ってきた次第だった。
玄関を開ける時、流の気配に一瞬躊躇した。
今までの経験から自分が怪我した時、流はとにかくめんどくさいと知っている。
ほんのちょっとの切り傷でも流は平気で三十分は説教する。
その説教から逃れようと思って、必死に怪我を隠そうとしてもあっさりとばれる。
今日はちょっとした傷どころではない。
三十分以上説教されるのは考えなくても分かることだった。
しかも、今は喧嘩中(?)なのだ。
そんな状況での説教は苦行でしかない。
嫌だな、と思うも怪我した自分が悪い。
今にも容易く折れてしまいそうな精神をなんとかもたせて、玄関に手を掛ける。
そこまで覚悟したというのに、出迎えたのは奈々だった。
流は部屋から出てくる気配すらない。
拍子抜けした。
だが、それ以上に悲しみが勝った。
昔、必要以上に怒る流に文句を言った時、叱ることが一番の愛情表現と流が言っていた。
心配だから、叱るのだ、と。