こんな能力(ちから)なんていらなかった
その代わりに連れ回したお礼と称して奢ってくれた。
慌てる優羽に構わず紫音はさっさと支払いを済ませてしまった。
その時に見えたカードの色に目を剥いた。その真っ黒なカードの色が何を意味するかは一応知っている。
こいつなにもん?
優羽の家は特殊とはいえ根っからの庶民だ。
何をどうやったらこんな金持ちと出会うなんてことになるのだろうか。
そんな細やかな疑問ですら解決されないうちに、青年は急ぎ足で何処かに消えた。
『連絡待ってる』とだけ言い残して。
優羽は溜息つきながら上を仰ぐ。
目に映るのは真っ白な天井だけ。
“白”
それは彼女の記憶の始まりと同じ色だった。
今から三年前のまだまだ蝉の鳴き声が五月蠅い夏の昼下がり、目を覚ました彼女の目に飛び込んだのは潔癖なまでの白。
体を起こそうと力を込めれば全身を貫くような激しい痛みが走り。
それは体を起こすことすらも、ままならない程で。
顔を横に倒せば自分の腕と機械を結ぶ無数の管が、そしてその機械の画面にはやつれた女の子が写っていた。
何が自分に起こったのか何一つも分からなかった。