こんな能力(ちから)なんていらなかった
悪夢を見た時、発作を起こした時、そっと手を差し伸べ抱きしめる。
『もう大丈夫だから』と優しく囁く、それだけの関係。
そんな関係が一年続いた頃、夢の中で流の名を一切呼ばない優羽に流は苛立ちを感じ始めていた。
“らう”がなんなのかは分からない。
現実に存在するのかどうかも見当がつかない。
しかし、優羽がそれを求めているのは明らかで、それは、昔も今も変わりはしなかった。
その名を呼ぶ優羽の声は聞いたことがないほど切ない。
知りたくなくても思い知らされる。
自分は代わりにしかなれないのだと。
そのことは流には受け入れ難かった。
流は耳を塞いで優羽は自分のものだと自身に言い聞かせながら慰め続け。
そのままさらに二年の月日が過ぎた。
優羽はいつからか物思いに耽ることが多くなった。自分が本当に優羽という人間なのか疑問に思っているようだった。
その頃から優羽は自分の記憶を強く欲するようになった。
そして、記憶をなくしてから三年後の夏、優羽は東京に戻ることを願った。
最初は頑として受け入れなかった優羽の両親も、優羽の熱意に負け、使い魔としていた火車を連れて行くこと条件にそれを許した。