こんな能力(ちから)なんていらなかった


 慌てて優羽の方を窺う。


 定期的に聞こえてくる寝息に再び安堵の溜息をついた。

 鍋を机の上に置いて優羽の顔を覗き込む。


 久方振りに見た優羽の顔に流は息を呑んだ。


「——寝てない、のか……?」


 閉じた瞼の下には何日も寝てないということが、ありありと見て取れるほど黒い隈が居座っていた。

 頬も幾分かこけたように思える。
 血色も悪い。


「……俺のせい、なのか……?」


 奈々の言葉が流の心を締め上げる。


奈々はこのことを言っていたのか——


 流は顔を歪める。


優羽のそばに——


 最初の自分は優羽に安らぎを与えるために、優羽のそばにいたはずだ。


だが、今の自分はなんだ——?


 自分の不甲斐なさに流は顔を覆う。


「これじゃあ、オウジサマになれるはずもない……」


 オウジサマの可能性に縋った過去の自分を殴りつけたい。

 それぐらい優羽の有様は酷いものだった。


「……俺は、お前のそばにいない方がいいのか……?」


 流は優羽の頬に手を当て、眠る優羽に問いかける。


「俺は、お前の邪魔になっているのか……?」

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