こんな能力(ちから)なんていらなかった


 答えはない。

 そう分かっているから口に出した。

 はずだった。


「……そんなことない」


 流は目を見開く。

 寝ていると思っていた優羽は目を開け、流の姿をはっきりと捉えていた。


 流は咄嗟に優羽の前から立ち去ろうとする。

 が、優羽はその腕を素早く捕らえていた。


「……俺はいないほうがいい」

「そんなことない……」

「何故そんなことが言えるっ……!」


 流は声を荒げた。

 病人の前で、しかも好きな人間の前でこんなことをすべきではない。


 分かってる。

 そんなこと分かっている。


 全て理解している。


 だが、自分の口は止まらなかった。


「お前だって、俺を違う、と言って突き放した……いらないだろ、偽物などっ!」


ニセモノ——


そうだ。

自分はニセモノなんだ。


 流はそのことをずっと認めたくなかった。

< 221 / 368 >

この作品をシェア

pagetop