こんな能力(ちから)なんていらなかった
——『惚れてんなら優羽のこともっと考えてあげたら』
奈々の言葉の意味が今ようやく分かった。
優羽を愛してるのなら、優羽のために優羽のそばにいるべきだ、そう言っていたのだろう。
自分の醜い欲望は押し殺して。
そばにいてやれ、と。
なんて無茶なことをと、流は顔を掌で覆う。
——俺に聖人君子になれって言うのかよ……
眉を垂らして必死に流の顔を見つめる優羽を流は指の隙間から見下ろす。
優羽は自分がいなくばればきっと泣き続けてくれるだろう。
罪悪感を内に秘めて。
流のことだけを思って。
それは純粋に嬉しい。
だが。
流が見たかったのは優羽の泣き顔なんかではない。
最初に求めたのは優羽の笑顔、それだけだったはずだ。
「……そうか」
優羽はぐすっと鼻をすする。
その頭をぐしゃぐしゃと思い切り撫でた。
不思議そうな、でも、嫌そうな、でも、満更でもなさそうな、そんな顔を優羽は自分に向ける。
心の底から優羽の幸せを願う今なら、笑って言える。
「俺、優羽のことが昔から好きだった」
一句ずつゆっくりと綴る。
数秒空けて、優羽の目が見開かれた。