こんな能力(ちから)なんていらなかった
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「ふわあぁぁ……」
人気の少ないホームの上で優羽は大きな欠伸を手で隠す。
今迄心の中にあった蟠りが消えたからか、ついつい気が緩んでしまう今日この頃。
あの夢を見たくがない為に頬を抓って眠気と闘う。
昨日流と和解した——
と言っても夢を見なくなったわけではない。
電車を待つ僅かな間でも睡魔は襲いくる。
今も気を抜けば容赦無く瞼はおりてくる。
そしてあの女を見て弾かれたように目をあけるのだ。
流と仲直りしたらもう姿を現さないかと思っていたが、予想外なことにじゃんじゃん現れる。
迷惑極まりない。
そのため不眠症が続いてしまっている。
——流は、いつでも頼れと言ってくれた。
優羽は我が子みたいなものだから、と。
だが、頼れるはずもない。
だって。
気が付いてしまったから。
流の声の裏に隠された熱い情熱を。
知ってしまったから。
流の笑顔の後ろにある本音を。
もう後には戻れない。
優羽だってあれだけ熱のこもった瞳に見つめられて気が付かないほど鈍感じゃない。