こんな能力(ちから)なんていらなかった
恋愛に疎い優羽とて、そこら辺の機微は理解しているつもりだ。
好きな女から『添い寝はして。でも手は出さないで』なんて苦行にもほどがある。
流の理性には感謝している。
そして信頼もしている。
だが、やはり甘えるわけにはいかなかった。
今まで迷惑をかけてきた。
流はもしかしたら頼られた方が嬉しく思うかもしれない。
でも、これ以上辛い思いをさせたくなかった。
なにより。
また、同じことを言ってしまわないとも限らない——
結局自分が強くならなければいけないのだ。
それが自分のエゴに過ぎないことも理解している。
記憶を取り戻して、自分の意思を強く持って、誰も傷つけないように。
そうならなければいけないのだ。
早く記憶を取り戻して——
ここにきて優羽はかなりの焦りを感じていた。東京に来てすでに三ヶ月が経過しようとしている。
なのに記憶を取り戻すことはおろか、取り戻すきっかけすら見つからない。
あんなにも大事に思ってくれる流のためにも、そして、紫音への態度をはっきりさせるためにも、自分の記憶を一刻も早く取り戻す必要があった。
なのに、答えは見つからず、夢の中のあの女の声だけが降り積もっていく。