こんな能力(ちから)なんていらなかった


『……二番線にまもなく電車が参ります。黄色い線の内側でお待ちください——』


 優羽は電車到着のアナウンスにハッと顔を上げた。
 自分がいるのは一番線、二番線は反対側のホームだ。

 自分には関係ない、と判断を下すと優羽は向こう岸に何気無く目をやった。


「————っ」


 本当に一瞬だった。


 その姿は高い警告音を鳴らしながら電車がホームに入ってきたせいで一瞬しか見えなかった。

 風で髪が揺れる。

 優羽は緑の線の入った車体の先、見えないそこを食い入るように見ていた。

 見間違いだとは思った。
 けれど向こうにいた気がしたのだ。


 短いメロディが途切れて、電車は発車する。電車の消えた向こう側のホーム、そこにはなんの人影も存在しなかった。


「……やっぱり、見間違いだよね」


安心したような、寂しいような……。


 もしかしたら、優羽には気付かず電車に乗って行ったのかもしれない。
 複雑な思いを持て余しながら、腕時計を見た。

 あと一分で電車が来る。

< 230 / 368 >

この作品をシェア

pagetop