こんな能力(ちから)なんていらなかった
『……二番線にまもなく電車が参ります。黄色い線の内側でお待ちください——』
優羽は電車到着のアナウンスにハッと顔を上げた。
自分がいるのは一番線、二番線は反対側のホームだ。
自分には関係ない、と判断を下すと優羽は向こう岸に何気無く目をやった。
「————っ」
本当に一瞬だった。
その姿は高い警告音を鳴らしながら電車がホームに入ってきたせいで一瞬しか見えなかった。
風で髪が揺れる。
優羽は緑の線の入った車体の先、見えないそこを食い入るように見ていた。
見間違いだとは思った。
けれど向こうにいた気がしたのだ。
短いメロディが途切れて、電車は発車する。電車の消えた向こう側のホーム、そこにはなんの人影も存在しなかった。
「……やっぱり、見間違いだよね」
安心したような、寂しいような……。
もしかしたら、優羽には気付かず電車に乗って行ったのかもしれない。
複雑な思いを持て余しながら、腕時計を見た。
あと一分で電車が来る。