こんな能力(ちから)なんていらなかった
優羽はふぅと息をつく。
そして尚も荒ぶる胸をぐっと押さえつけた。
あれは気のせい。
寂しがってる自分が見た白昼夢。
——だけど、きっと心の奥底では分かっていた。
行き交う足音、車のエンジン音、通り過ぎる電車。
そんなにも騒がしい昼間。
なのに、
カツン——
と上品な足音が自分の耳に届いた。
一歩一歩確実に近付いて来るのがはっきりと聞こえる。
こんなにも騒がしいのに。
足音なんて聞き取れるはずもないのに。
そして、その音は自分の真後ろで途切れた。
心臓がバクバクしすぎて振り向けない。
「……優羽」
聞こえてくるのはずっと聞きたかった声で。
すぐにでも振り向きたかった。
けれど、どんな顔をすればいいのか分からなくて優羽は振り向けずにいた。
そのまま数秒が経過する。
ゆっくりと気まずくなってゆく空気。
優羽は先程の声をシカトしたことを後悔し始めていた。
こうなってしまったら最後、自分からは動けない。タイミングが分からないから。