こんな能力(ちから)なんていらなかった


「お前さ……、……っ」


 紫音は向き直った途端目を見開いた。

 紫音は優羽を食い入るように見つめた後、優羽に一歩近付いた。


 そして頬にそっと指を這わす。

 その手つきは割れやすい高価な陶器に触れるのを思わせた。

 繊細に、そして柔らかく優羽の頬をなぞった紫音は優羽が抵抗する間もないほど速く、優羽の身体を自分の元に引き寄せていた。


「今まで……」

「え?」

「今まで連絡も寄越さずに、何してたんだよ……?」


 優羽は意味が分からなくて訊き返す。


「だからっ!」

「……なに」

「何でこんなことになってんのか訊いてんだよ!!」


 優羽は紫音の腕の中で首を傾げた。


「こんなことって……」

「こんな痩せて!こんな顔色悪そうで!一体何があったんだよ!?」

「何がって……」



 優羽には本気で意味が分からなかった。



なんで、この人が。

こんなことを言うの?


なんで、この人が。

こんなことをするの?


なんで、家族でも、友人かどうかも分からないようなこの人が。


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