こんな能力(ちから)なんていらなかった


「なんで、紫音はそこまで私のことを気にするの?」

「……俺はお前が、」

「紫音には仁緒がいるじゃん」

「——!っなんで、それ……」

「聞いたの、紫音の婚約者だって……」


 紫音が明らかに顔色を変える。


「……葵が言ったのか」

「違うよ、……私が見ちゃったの」



——紫音と仁緒のキスシーンを。



 紫音が息を飲んだのが分かった。



 言いながら、自分の心臓が裂けたかのように思った。

 だって、本当にそれだけ痛い。
 今にも倒れてしまいそうなくらい、この胸の奥が痛い。


 あの時紫音からしたんじゃないのは分かっていた。
 けれど、そのキスが手慣れているように見えたのは気のせいじゃない。

 きっと紫音は何度もキスしてる。
 仁緒と。
 大事な人と。

 優羽以外の人間と。


 何度も。何度も。


「——違う」

「……なにが?」

「あいつは婚約者だが、俺はそれを認めてない」

「……だとしても、今の所はそういう関係なんでしょ?否定したって事実には変わらないんじゃない?」

「解消する」

「へ?」

「もうすぐ解消できる」

「え?」

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