こんな能力(ちから)なんていらなかった


 何度も訊き返す優羽に痺れを切らして、紫音は優羽の肩を掴んで荒々しく引き寄せた。

 そして優羽の頬を両掌で包み込んで上を向けさせる。


「俺が一番大事なのは御岳なんかじゃない」

「……そんなこと言ったって」

「口約束なんてどうにでもできる。俺を誰だと思ってんの?」


 紫音は何時ものように意地の悪い顔でそう言った。


「……紫音」

「なんだ?」


 優羽はそっと紫音の手を取る。

 おそるおそる、震えながらもその手を取る。



 そして、ゆっくりと口にした。



「私は紫音にとって何?」



と。


 紫音は優羽の目を真っ直ぐ見つめた。

 そのままの状態で数秒が過ぎた。


 優羽の方はずっと微かに震えている。


 紫音はそれに気付くとそっと優羽の身体を包み込んだ。


「優羽は……俺にとって」

「……」

「かけがえのない唯一の人、だよ」

「——っ!」

「お前を失ったら俺は生きていけない、それぐらい大切なんだ……」


 紫音の腕の優しさに、言葉の暖かさに優羽の目から涙が溢れる。


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