こんな能力(ちから)なんていらなかった



 でも悔しかった。
 今迄悩んでいたことが紫音の一言で消えてしまうことが。

 この涙が自分でも、何なのか分からなかった。
 嬉しくて泣いてるのか、悔しくて泣いてるのか。


——両方な気がした。


「……だから、何も言わずに頼れ。お前はいつも抱えすぎなんだよ……」

「……ん」

「何のために俺がいるんだと思ってんの?」

「……うん」

「優羽にこれ以上辛い思いさせたくないんだけど。分かってる?」

「……、うん」


 紫音はそっと涙を拭う。

 繊細な手つきで。


 そんな優しくされたら、愛されているのだと錯覚してしまう。


「これからは、何かあったらすぐ相談しろ。絶対だ」

「……うん」

「言っておくけど拒否権はないからな。今回のことでかなり心配させられたから」

「…………分かった」

「あと返信は必ずしろ」

「……返信、うん?……」


 そう呟いた後、一瞬で優羽の顔から血の気がなくなった。


 慌ててポケットの携帯を掴む。


 そうだった。ずっと見てなかった。

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