こんな能力(ちから)なんていらなかった


 キョロキョロと辺りを見回す男の顔は平凡で、悪口とかではなく、記憶に残らないような顔をしていた。


 そいつは、一頻り周りを見た後ふっと路地裏に消えた。


 そぼ挙動不審な様子が気になって、優羽はその男の後をつける。

 路地裏に入った優羽はその先にいた男を見て目を丸くする。


「angelic……」


 その男の背には白い羽があったのだ。

 千秋に手をかけようとした時その男が優羽に気がつき、目を見開いた。
 また変な術を使われると予想した優羽は素早く構える。

 だが、予想に反してその男は何もせずに口を開いた。


「フィリアム様……」


 人名らしいそれに優羽は聞き覚えがない。


「フィリアム?」


 思わず訊き返した時、その男は狂ったように笑い声を上げた。


「!?」

「やっと、……やっとだ」


 ニヤリと笑ったそれは、一度羽ばたくと、そこから消えた。

 その場に残された優羽は唖然として男がいた場所を見つめる。


 取り敢えず握り締めていた千秋を仕舞う。


 優羽は仕切りに首を捻りながらその場を離れた。
 そして取り出したのは携帯。
 短いコール音の後、紫音の声が耳に届く。


「聞きたいことがあるんだけど……」

『何かあったのか?』

「……フィリアムって知ってる?」


 そう聞いた瞬間ガタタッと椅子から落ちたような音がスピーカー越しに鼓膜を震わせ、思わず手を伸ばし携帯を耳から遠ざける。

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