こんな能力(ちから)なんていらなかった
優羽はツーツーと未だ鳴っている携帯を眺めると、それをポケットに押し込み歩き出した。
目指すは自分の家。
電車に揺られている間に流に連絡を入れ、準備をしておいてもらう。
自宅に着いた瞬間、優羽は流の部屋の更に奥に向かった。
そこのドアを勢いよく引くと狭い隙間から無理矢理自分の身体を中に捩じ込む。
その部屋の中に入るとヒンヤリとした空気が優羽を包む。
「おかえり優羽」
「ただいま、ありがとう」
「じゃあ俺は外出てる」
「うん」
一通り会話をすまして、流が部屋の外に出ると、優羽はさてと。と袖を捲り、その部屋に一つだけある椅子に座った。
「——やりますか」
キーボードを叩いた瞬間三つの画面から出た青白い光が優羽の顔を照らす。
そこからはパソコンから微かに聞こえるブゥンという音とキーボードを叩く音しか聞こえなくなった。
それからどれだけの時間が流れたのか——
ノックの音で優羽は我に帰る。
「入っていいか?」
「どぞー」
流は静かにドアを開け顔を覗かせる。