こんな能力(ちから)なんていらなかった


「考えごとやめ!」

「はぁーい」


 言われて席に着き、流に促され手を合わせる。
 いただきます。と唱えてから奈々の姿がないことに気が付いた。


「奈々は仕事?」

「閻魔から呼び出し食らったとボヤいていた」

「閻魔様かぁ……気まぐれな人だよね、あの人も」


 一度もあったことのないお方だけれど、大層気まぐれというのはよく聞く話だ。


「……一度会ってみたいんだよねぇ」

「何で?」

「色々と聞いてみたいじゃん?」


 優羽は食べ終わったお皿を抱えて立ち上がるとごちそーさまでした。と言ってからリビングを出た。

 そしてジャージに着替えて和室に行く。
 その部屋の床の間の刀掛けには千秋が置いてあった。

 それを手に取り玄関に向かう途中、流に会った。


「今から走りに行くのか?」

「うん。ちょっと首凝っちゃったから」


 流はぽんと頭を叩く。
 

「気をつけろよ」

「了解」


 戯けて言うと、優羽は暗い街の中に身体ごと飛び込む。

 もうこの季節になると夜風は冷たい。

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