こんな能力(ちから)なんていらなかった


「……もうすぐ十二月だもんねぇ……」


 軽く流しながら、背中の千秋をギュッと握り締める。

 スッと鞘から刀を抜くと千秋は嬉しそうに身体を揺らした。


「行こう、千秋」


 そう呟いた瞬間、千秋がピシィッ——と嫌な音を立てた。
 優羽も同時に振り返る。


——今、何かが起きた。


 優羽は千秋を元通り鞘袋に収めると、反対側に向かって走り出す。

 さっきまでの走りとは比べ物にならない速さだ。


 そして、優羽は気が付く。


 自分とは違う質の能力。
 そして何度も目の当たりにしているあの不思議な能力。


 この先にangelicがいることに確信を持った優羽は、気配をなるべく抑えてその能力の発生源の元に急ぐ。

 そしてその後ろ姿を見つけた時優羽は咄嗟に塀の影に姿を隠した。


 何故かゾッとしたのだ。

 その背中に。

 ただただ一点を見て立ち尽くしているその背中に。


 優羽は自分の感覚に疑問を覚える。

 今までなかったのだ。
 そんな思いをしたことが。


 たとえ、それがどんなに不気味なものであったとしても。

 こんな感情を持ったのは初めてだった。


 優羽はポケットの中にあった携帯を掴むと連絡帳を開いた。

 そして紫音に電話をかける。

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