こんな能力(ちから)なんていらなかった
「ご機嫌麗しゅうございます、フィリアム様?」
そこにいたのは、この間、フィリアム様と呟いた、あの男だったのだ。
優羽は瞬時にその腕を取り投げようとするも、男の腕は陽炎のように消え、優羽は空を掴んだ感触に目を見張る。
「相変わらず喧嘩っ早いことで……」
いつの間にか横に立ち優羽のことを見下ろしていたその男に優羽の肌は粟立った。
「やっと、見つけた——」
優羽はその男の瞳から目が離せなかった。
そして気がつく。
男を見つけた時の自分の本当の感情に。
優羽が男を見た時に感じたものは恐怖なんて簡単なものではなかったのだ。
畏れなんてものでもない。
男に感じたものは、不快感のみ。
頭の周りをナメクジが這い回る、もしくは自分の身体をヌルッとした何かが這いずっている。そんな感覚。
キモチワルイ。
それだけが優羽の頭の中を支配した。
薄ら寒く感じる空気の中で、その男は優羽の手首を捻りあげた。
「っ——!?」
自分の腕から携帯が滑り落ちカシャンと鳴った。だが、気に留めている暇がない。