こんな能力(ちから)なんていらなかった
優羽は目の前の光景が信じられずに目を見開いたまま固まる。
脳内がショートしそうだ。
「……優羽、これ羽織っとけ」
出していた手を引っ込めた紫音は着ていたジャケットを優羽に被せる。
そして紫音は立ち上がると数歩歩き頭を押さえ蹲っていた男の胸倉を掴んだ。
「お前は、性懲りも無く……」
男は何も言わずにニヤリとする。
その瞬間紫音は手を離して後ろに跳んだ。
一閃——
紫音がいたところから光の粒子が溢れ、柱となって空に立ち昇っていた。
優羽は紫音の服に目を見張る。
紫音のティシャツの裾がなくなっていたのだ。
光の柱にかかった部位が。
この光の柱が何を意味するのか気付いた優羽は青褪めた。
もし。
気付くのが一秒でも遅れていたら。
紫音はこの世にいなかったかもしれない。
紫音は自分が死んでいたかもしれないなんて露程にも思ってないらしく、凄い形相で柱の中にいる男を睨みつける。