こんな能力(ちから)なんていらなかった


「なんで消えないの……」


 爪で抉るようにそこをこする。
 やっと少し消えた。


 優羽は満足そうな笑みを浮かべると、肉に自らの爪を刺し入れた。







 紫音は自分のベッドに腰掛けながら洗面所に繋がるドアを眺めていた。


 いくらなんでもおかしいのだ。

 あそこの部屋に押し込んでから十分以上も経つのに、シャワーの音が聞こえてこない。


 ドアを開けて中を確認したいのは山々なのだが、今優羽を見たら抑えが効くわけない。


 部屋に戻るなり気になったのは優羽の胸元。
 前を手で押さえないから谷間まで、はっきりと見えている。


 ついついそこに目が行くのは仕方ない。
 だが、そこで紫音は見てしまった。


 赤い跡。

 それは所有の証。


 暗い場所では見えなかったそれが、明るいところでははっきりと見えた。
 
 誰が付けたかなんて一目瞭然のそれは紫音の腸を煮え繰り返させた。


 優羽をなるべく視界に入れないようにしてティシャツを渡し、洗面所に押し込んだ。


 今同じ空間にいたら、絶対に優羽を怖がらせる。
 我慢なんてできるはずがない。


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