こんな能力(ちから)なんていらなかった
あの男と同じことをしてしまう。
そして優羽は自分を嫌いになるかもしれない。
それだけは嫌だった。
紫音は頭を抱える。
「もういっそのこと……」
言ってしまおうか——
そんな呟きが紫音の口から漏れる。
それが出来たらどんなにいいだろう。
だが、この気持ちは自分からは伝えないと決めた。
何故って今優羽に告白しても優羽はきっとOKと言ってしまう。
例え紫音のことが好きではなくても。
優羽の態度からそれが窺える。
だが、それが本当に恋愛としての感情なのか紫音は見当つけられなかった。
どちらかと言うと親愛の感情に思えてしまう。
記憶がない優羽に色々と教えたのは自分なのだ。もし教えた人間が葵だったとしたら、優羽はここまで自分になついていないかもしれない。
それが自己防衛だというのは、心の底で理解している。
だが、紫音は優羽が本当に自分のことを好きになってから、優羽のことが好きなのだと伝えたかった。
もう二度とあんな愚行は犯したくない——
紫音は首をもたげ、優羽との空間を隔てる扉を見つめた。
そこからは今だにシャワーの音が聞こえてこない。
流石に自分の理性がどうのとか言ってる場合じゃないかもしれない、と思い当たった紫音は静かに立ち上がりドアに近付く。
中に誰かいるように感じられない。
静かすぎて不気味だった。