こんな能力(ちから)なんていらなかった


 コンコンと二回ノックする。
 返事はない。


「優羽?」


 呼びかけても反応がない。
 紫音は血相変えて扉に手をかけた。


「優羽!!」


 そこで優羽は座っていた。
 倒れてたりはしてなかった。

 だが、安堵はしてられなかった。


——甘い香り


 優羽の胸元は血で濡れていた。

 なのに優羽は必死に爪を動かしている。

 肉を削ぐように。


「優羽!」


 呼んでも優羽はやめない。
 
 紫音は優羽の両手を掴み、持ち上げる。


「離して!!」


 優羽はもがき暴れる。
 
 どうしたら止まる。
 どうしたらやめる。


 紫音が優羽の体を拘束しようとした時、優羽が叫んだ。


「紫音に嫌われたくないの!」


 不意打ちの言葉に紫音の動きが一瞬止まる。

 優羽はその隙をついて紫音に跨った。


 紫音は驚きすぎて何も言葉が出ない。


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